Saturday, June 18, 2011

成恵の世界SS:ある世界の終わり

《基軸第四世界》・《島田屋旅館》

私もカズちゃんも、よくてとらを会いに来るようになった。
私は特に、時々旅館の手伝いという形で、一人で来るくらい。それほど、よく勝手に思い浮かんでくるから。
もちろん、嫌じゃない。むしろそれだけで、心を温めてくれる。
絆を深めた…と思いたいが、責任を感じずにいられないというのも事実。

てとらは、もう人間になっているから。

思い返したら、あんなてとらもそんなに怖くないかも。たとえ、カズちゃんにあんなことしても。
この子絶対私たちを傷付けない。どうなっても。と、信じていた。不安だけど、ちょっと不思議…

でもこのままじゃダメ。

てとらはあんな力に呑まれちゃダメ。人間の心を起こさないと。私たちの元に連れ戻さないと…

「…お母さん?」
「ん?どうしたの、てとら?」

気がついたら、袖が軽く引っ張られている。

「ちょっと、話があるの。お母さんにだけ…いいかな?」
「いいけど…どうして?」
「元々、私、お父さん、お母さん、三人の秘密なの。そしてあの時、お母さんとの事。」

あっ。

恐らく、聞かれたくない。見られたくもない。
「あの時」のことについては、私とカズちゃんとてとらだけは家族。それ以外は、誰だって他人。
ハルナさんには、申し訳ないが…

「分かった。じゃ、どこかに行こうか」

* * *

辿り着いたのは、屋上。
それどころか、すべての始まりと同じ夜空。

てとらがあの白い船を組み上げていた時、立ってた場所。
(もうあんな事、しないよね…?)

てとらがさりげなく、髪を触った。
妖精みたいな耳があった所に。

「あのね」
「あの時、実は、聞きたい事があったんだ」
「『私』は、聞けなかったけど。」

「聞きたい事…?」
「って、まさか、今までずっと聞きたがっているの!?」

いくらなんでも気が利く子だとしても程がある…

「ううん、違うの。聞けばお母さんはどう反応するのか、知りたいだけ。」

「じゃ何?聞きたい事って」

* * *

一瞬、何が起きたのかよく分からない。
気がつけば、てとらもう懐に飛び込んで、震え始めた。

「私はお母さんを幸せにできないの…?お母さんは、何もいらないの…?」

眩暈がした。

一人の子が飛び込んだとは関係ない。

あくまでも、人間の体重だけだし。

それなのに…

それは、自分も何度も、夢見た構図だから。
それに加えて、縋っている子は、自分とそっくり。
まるで夢の中でお母さんに会った時、縋っている自分。

「ずっと側にいて!」

「一人にしないで!」

「なんでもするから!お母さんの言うこと聞くから!行かないで!」

だから思わず、言葉にしてしまった。

「できるよ」
「ずっと、側にいてくれる?」
「それは私の幸せ。きっと、てとらの幸せにもなれるよ」

「あ…」

ハッと、我に返った。

私、何を言っているの?

ここは島田屋旅館。第四の御柱じゃない。
てとらももう御柱じゃない。私とカズちゃんの子…

「…ごめんね、お母さん。泣かせるつもりはないの」

やっと、てとらの言葉が耳に入り始めた。

「でも、嬉しい。本当に嬉しい。お母さんは私の事、そんなに…」
「悪いことをしたんだね。ううん、それだけじゃない。チートしちゃったの。」

混乱のあまり、全然返事ができないが。

「御柱が機能停止のすぐ前に、あんな世界を見たんだ。
 『私』は聞けなかったけど、それを聞けた私もいたんだ。」
「私よりも、しっかりしていた私。より一心に、お母さんのことを思うからかな?」

「…もしかして、泣いているお母さんを見たからかな?」

……てとらをハルナさんに預かって、離れた時のこと?

……あんな私を見てしまったら、てとらがどう思うの?

……なにをしようとするの?
     ・・・
そして私、本当にこれでいいの?

正直、ありえないと思いたいが……

「あの世界の私なら、多分お父さんにあんな乱暴もしない。機械の私には理由があるとしても」

あんな世界もあるんだ。人間の心が起きても、私たちの元に戻らない。

そのかわり、私たちをそっちに連れて行く。
人間のてとらも機械のてとらも夢見る、ずっとへ———

「後悔しているの?」

「えっ…?」

「力を捨てて、人間になったこと。私の言うことに…」

「ううん、してないよ。」

「この世界は、同じお母さん、お父さん、そして皆がいるから。」
「むしろこっちの私がダメなのかな?」

ようやく、てとらが笑った。

「あの世界がどうなるか、それを考えるとちょっと怖いし…」
「ねえお母さん、今日はいっしょに寝て、いい?」

新しい。

「いいけど……いつまでいっしょに寝るつもり?」

「まだ一歳にもなっていないけど?」

「それは、私の問題じゃない!」

二人が階段に。

手を繋いで、笑いながら。

でも。

本当は、後悔しているかも。

それはどちらか、わからない。
   ・・・

* * *

「我は第四の御柱。」
「穢れし者たちよ、我が庭を荒らすことは許さぬ。」

《逆基軸第四世界》・《第四の御柱》・《中央シャフト第13階層》

成恵「ほんとにてとらなの!?」
和人「どの御柱だろうとてとらはてとらだ、帰るんだてと……わあっ!?」

庭師の触手が和人の爪先を掠って、地面に突き刺さった。
そして同時に三賢者が武器を出して、第四の御柱に向けた。

「私に手を出すのか?三人とも。」

「我等の御柱はてとらしかいない。お前なんかじゃね!」

「そう。ついに貴方達も、蛇に呪われたね。」

和人「蛇、あのニョロニョロの何が怖いのかボクには分からない。」
和人「並行世界を旅できるなら、もっと楽しい世界に…」

「生命の救済こそ、御柱の幸福。」

成恵「あ…」

そいうこと。

鈴ちゃんから聞いたんだ。てとらは自分のこと、どう思うのか

「良くするために創られたの。」
「私はなんでも変えられるし、みんな幸せにできるよ。この星の誰よりも。」

そして、あんなとんでもないことも。

「これで守れるよ!この星も、みんなも、全部!!」

* * *

「世界は恐怖と絶望に満ちている。より強く、より高度に。」

御柱は、またてとらの声で語り出す。

「生き残るための戦いは、人を人ならざる者へと変えずにはおかない。」
「そして蛇は繋げるべきでない世界と世界を繋げ、宿業を助長する。」
「異文明同士が出会えば必ず争いを生む。御柱は生命を呪いの届かぬ高みへ———」

成恵「それって、おかしいよ」
和人「必ず争うなら、成恵ちゃんはボクとここにいないはず」
成恵「私だって生まれてない。そうよ、てとらだって———生まれないもん!」

(私…生まれない?)

ドクン。

記録系統が勝手に動き始めた。私の生まれに繋がっている、無数の結線に辿って。

そして。

あの日のこと。

「卵がもし孵って」

「生まれた子にお父さんお母さんいなかったら、かわいそうだもの」

そんなことを言い出した女の子、九歳の時のこと。

全系統が、ほぼ停止した。

「てとら!」

* * *

「一個体の悲劇に過ぎない。我々は全ての———」

和人「この声は!?」

「ううん、私たちはたった一人も助けられない。」
「滅びた人たちの願いも叶えられず、さまよっていただけ」

「違う!叶うなら星になって、悲しみのない楽園を———」

意味を保ち続けられる可能性「ごめんね、きっと私たちが弱いのがいけないんだね」  「てとら!」

和人「成恵ちゃん、もう脱出しないと…」        てとら「え…」

「私もね、ときどきお母さんがいてくれたらなって思う。 「しっかりしてよ!この星も、みんなも、
 でも私のお母さんは、                 守るでしょう!?第四の御柱なんて、
 もういないことも含めてお母さんなの……」       てとらの船なんでしょう!?
                            しっかりしてよ!!」
和人「成恵ちゃん!」
                           てとら「お母さんは…嫌じゃない…?
「……私たちはずっと一緒にはいられない。           これでお母さんを救えるの?」
 私は今いるこの世界が大好きだし。
 もしも自由に世界を選ぶことができて、        「嫌って…どうしてそう思うの?」
 誰も死なないくらいに強くなっても、
 きっと悲しいことはなくならない。          てとら「これで…お母さんを救えるの?」
 だから…」
                           「私を…救う?」
「そんな…そんな…私…私っ…!
 …私をかわいがってばかり…お母さんは、       てとら「どうして黙っていたのよ…
 何もいらないの!?                     『お父さんお母さんいなかったら、
 私はお母さんを幸せにできないの!?」            かわいそう』なんて…お母さんは!?
                               私、どうすればいいの!?」
「えっ」
                           「な…」
「嫌ぁ…嫌ぁぁぁ…!」
                           だから、こうなったの…?
「なんでもするから!お母さんの言うこと聞くから!」
                           てとら「どうしようもないよね。
絶望的なのに、縋っている。                  この世界のお婆さんは生き返らない。
                               こんな力があっても、何の意味もない。
「そんなこと、言わないで———!」              皆を守るなんて、人類を救うなんて、
                               艦隊と戦いまでして…結局、
だからもう断念したはずなのに。                私はお母さんすら幸せにできない。
残酷な言葉を言うはずなのに。                 何のために…何のために…私、
                               何のために生まれてきたのよ!?」
それなのに、違うことを言ってしまった。

「できるよ」


「えっ…」



「ずっと、側にいてくれる?」
「それは私の幸せ。きっと、てとらの幸せにもなれるよ」

「だって、生命の救済って、御柱の幸福なんでしょう?」

「あ…」

《デュアル意識系統検出》

あんな人間じゃない姿の、初めての笑顔。
元々しゃがんでいるのに、無理矢理押し倒された。

何トンの体重とは関係ない。
いくら機能喪失だとしても、中枢の慣性制御ぐらいはできる。
無意識に自重を制御しながら、無意識に凄い勢いで。

「う……う……」

うれしさのあまり泣いてしまったところじゃない。

《修繕・保存モードに移行》

機械は、人間の心を得た。

お母さんは私を必要としてくれた。

私の全て、何もかも。

自ら命を生むすらできる、生命を守る船にして、命じゃなかった私。

何万年も渡って、初めて、

生きる歓びを。

「ああああああああああぁぁぁ———!」

「ごめんね……てとら……ごめんね……」

言葉なんていらない。伝えられないし。

ただ孤独を泣き尽くすように、
間違いを直そうとするように。




* * *

成恵「落ち着いた?」

「うん…もう大丈夫。」

船の振動も、とっくにさめた。

「もういいから」「もう大丈夫だから」「もう一人じゃないから」「私がいるから」
「ちょっと控えてて」「ダメだよ、どんな体だって」…

どれぐらいたったのかも分からないぐらい大泣きしてきて、実はもう思いつく限り収めようとしたけど、
制御がぶっ飛んだみたいで全然ダメ。どおりで泣き疲れるまで、見る方がたまらない有様に。

「ごめんね、御柱としては大失態だね。」

《制御系統再構築完了》

「それにしてもお父さんって案外、臆病なんだ……」

和人「そ、それは、船が崩壊する前に、てとらを連れ戻さないとばかり」

「そのまま私を連れ戻したら、それはもう『私』じゃないよ。」
「人間も、機械も、両方とも私なの。機械として、存在の意味を失うなんて、怖いよ…」

てとらまた胸に手を当てた。でも今度は心を抑えようとするじゃなくて、
ただ確認するように、撫で下ろそうとする。

「……!」「……」「……?」

祖先たちの声、直接に頭の中に語りかけてくる。

これは、「御柱」の真実。

正直、こんな体に取り込まれて、正気を保ちながら慣れようとするだけで精一杯だけど、言いようもない。

つられて、お母さんの手も添えてくれた、「無理しないで」と言わんばかり。じゃちょっとだけ……
のつもりだったけど、どう頑張っても、落ち着くまで、何度も深呼吸を繰り返してしまった。

だれも、どこも、悪くなんかない。
でも私、もっと大事な理由がある。

「…もちろん、『良くするために創られたの』も機械の私。今日まであやふやで、下意識になっていただけ。」
「ひどい事言っちゃって、ごめんね。目覚めたばかりだから、最近の事全部ブランクだったの。」

「あ…」

ほっとして、和人と成恵の視線が合った。もう大丈夫だよね…?

「でも、もう大丈夫。それに、私がしっかりしないと。」
「もう誰にも邪魔させない。お母さんと私のずっと、絶対叶えて見せる。」
                    ・・・
成恵「ちょ…何をする気!?」

「もちろん、続けるよ。地球の人類を救うんだ。」

和人「な…」
成恵「私たちのこと…信じてくれないの?」

「ううん、信じるかどうかという問題じゃない。そもそも逆だよ。」
「星々の間に戦争が絶えないから、お爺さんが香奈花お姉ちゃんのママと離れた。」
「だから地球にやってきて、お婆さんとの間にお母さんが生まれたんだ。」

「色々あって、香奈花お姉ちゃんのママも地球にきて、
 現場指揮官として半隻の私と戦ってきたから、お父さんとお母さんはここにいる。」

「地球が滅びないのも何の秘密もない。人類まだそんなに強くないだけ。」
「この星から出られないから、核を撃ち合って皆おしまいっていうのは流石愚かすぎ。」

「でももし星々の文明になったら、人間はきっと星ごと潰せるようになる。」
「今まで一つの村、一つの都会、一つの国を潰せるように。」

「約束したし、お母さんが『やめなさい!』と言いつけたら、やめるけど…」

お父さんとお母さんは知らないが、もう囲まれている。

「救いがないの、こんな事でもしないと。兵器は、私一人でいいんだ。」

* * *

それは、嵐の始まり。

「アルマゲスト」なんて比べ物にもならない。

質量保存の法則がどっかに行った!?と思わせるほど、
無数の黒い蛇は記憶結晶から湧いて、指数関数的に増えていく。

もちろん、その法則は本当に無視できるなら、そもそも星を呑み込むなんてしない。
攻撃しながら、物質転換で増殖するだけ。

容赦や手加減なんて概念もない。
持ち主はもう覚悟したから。絶対に許されないし、許されたくもない。
小さい頃因果ごと銃を奪って、自ら前に出るように。

そして…

《エスクリトル・パラズマタービン圧力異常》《シュンヨウ・防盾生成システム停止》
《ハヤセ・電磁主砲故障》《タマンサリ・ベクトル機関停止》
《バンクパコング・動力システム障害》《フレミング・外燃ノズル破損》

名越大佐「な…!?」

平均故障間隔はどれも、数十万時間以上のはず。

芝先生「不可能ではないけど、確率的には不可能とも言える。テトラビブロスの能力だろうな…」

世界をすり替える。
一秒でも早く、恐怖と絶望を終わらせるため。
もう怖くないから。どんな事しても、どうなっても、一人なんかじゃないから。

無条件にして、無償の愛。

そいう奇跡が起きたから。

《C4ISRシステム情報更新:テトラビブロス・敵性認定》

たとえ代償として、幾つもの絆を切られても。

鈴「てとら…ちゃん…!?」

人類を生命の宿業から、救うため。

香奈花「成恵、おっさん、てとら!なにやってんの!?」

本当はね、機族のお姉ちゃんたちも救いたい。
でも流石無理。系統をそこまで改造する時間もない。

ハルナ「やめて…てとら…!やめて———!」

だから容赦なく潰していくしかない。
一秒でも早く、艦隊を撤退させる為。

世界が呑まれ始めた。

悲しみのない楽園は…不可能だよね。お母さんが言うように。

でも。

《もう、怖がらなくてもいいの。》

《この星のみんなを、守るから。》

《暴力に怯えなくてもいい、》
《災害に怯えなくてもいい、》
《治せない病気なんかない、飢餓もない。》
《恐怖も絶望もない楽園を、作るから。》

それぐらいは、できるから。

ビンテン「…撤退せよ。」
東郷田武司令「!」

ビンテン「あんなのは、派遣艦隊では無理。無駄な犠牲になるだけ。」
ビンテン「それに、撤退より、作戦続行の方が地球人類の死傷が出るから。」

《だから、もういいんだよ。》

* * *

「一緒に暮らそう?戦争のない世界に。」

「うん…」

私はただてとらを抱いている。

信じたくないが、現実を見過ぎたら、てとらの方が正しい。

もう悪いことしているのか分からなくなっちゃったから、
叱れないし、やめなさいとも言えない。

…こんな事をする存在なら、人の心を持たせるなんて、本当にいいの…?

ううん、いいに決まっている。

私たちが、付いているから。

* * *

「無理だって、わかってた」
「親のフリなんてヘンだって」
「長く続くはずないって…」

ヴンッ。

てとら「あっ!ジャッケト、忘れちゃった…っ!?」

成恵「でもひどいよ……こんな戦争みたいの…っ」
和人「て…てとら!?」

てとら「そ…そんな…」

ヴン。

ハルナ「てとらちゃん、どうしたの?行きましょう?」

成恵「てとら、私…大丈夫だから…」
和人「てとら、これはてとらのため…ボクたちは、てとらを守れないから…」

てとら「嫌ぁ…嫌ぁぁぁ…!いかない!どこにもいかない!」
てとら「私が守るから!お父さんお母さん私が守るから!」
てとら「一緒にいて!ずっと、一緒にいて!」

あの時、叶わなかった。
でも心から、もう誓った。
いつかきっと、叶えるって。

どうしても。

(内緒だけど、ね。)

* * *



《惑星青日第四の御柱/地球御柱》・《第三翼面》

人類の社会は、実はそんなに変わっていない。
ほとんどの人間は、ただ穏やかな日々を送りたいだけ。
それは容易くできるようになったら、世界がどうなっても受け入れられる。

「あの日」まで、大半の人間は病気に苦しみ、まともな食事もできず、
暴力に怯え、生きるだけで精一杯だったから。

それに、世界には意思ありというのは、人間にはありがちな考え方だし。

「ねえ~ねえ~お姉ちゃん~あの女の子誰?」
黒い蛇が現れると同時に投射するイメージについて、小さな女の子がそう尋ねてきた。

庭師にカスリ傷を、癒されながら。

「神様だよ。」

「神々の心も人間の心も持っている、神様。ちょっとわがままだけど、優しくて、かわいい神様だよ~」

新興宗教を創ろうとする訳ではない。
新世界の真実を伝えるだけ。

むしろ私とカズちゃんは、もっと早く正視すべきだった。
もっと早く真剣に考えるべきだった。

ただの女の子にしようとせずに、てとらがてとらのままならどう接すべきか、と。

だったら、きっと戦争の真ん中にあんな辛い思いをさせずに済むんだ……

でも、もう大丈夫。

「ただいま~」

着いた。御柱の住む森。そして、新しい「七瀬家」。

《惑星青日第四の御柱/地球御柱》・《中央シャフト制御中枢》

* * *

船の情報処理に追いつくため、てとらは大半の時間家にいなければならない。
人間の社会は緑日よりも青日よりも、遥かに複雑なのに、てとらしかいないから。

御柱と参考機族のヘテロジニアス構成とか、複数意識の並列処理とか、
よく分からない方法でなんとかなるそうだけど…

いない場合は、時々人間の姿に戻って、島田屋旅館の子供達と遊んでる。

ハルナ「てとら」

てとら「…」

ハルナ「どう…して?」

怒っているというより、悲しすぎて、優しくなれない声——後はそう聞いたんだ。

てとら「…救いがないの、こんな事でもしないと。」

てとらがありのまま、全部伝えた。

「本当はハルナママも、絶えない戦争から逃げるため、地球に来たんでしょう?」

ハルナさんは許した訳ではない。

みんなを信じるべき。
機族として、全てを人間の自分に背負わせるのは、本当の救いではない。
てとらの答えはただ「この星のみんなが幸せになるのは、私の幸せ。これでいい。」だけど、間違っている。

でも、時々来るぐらいは。「それは子供としての権利です。私が奪う訳にはいきません」、と。

てとらの人間の心、失わないように。
いつだって、人の目線で世界を見られるように。

そして私、ハルナさんと約束を交わした。
私てとらに、ただ一つの秘密。

もしてとらはこれからも、何万年も青日人と人類を守り続けるつもりなのに、
私は自然に従うなら、ハルナさんがてとらの養母になる。

「仕方がありませんよ、私があの子に『ママ』と呼ばせたから」
苦笑いしながら、ハルナさんがそう言ってくれた。

それにてとらが何も言わなかったが、全部の機族を蛇として排除すべきの御柱系統が無理矢理いじられて、
ハルナさんも守って、地球の人間と一緒に運んでいるから。

てとらはてとらのまま。
自分のことをはっきり認識できたからか、むしろ前より年頃の女の子らしくなった。

ちょっと大人しくもなったけど、それはやっぱり仕方ない。
「堅苦しいよそれ。あなただって『てとら』なんでしょう?」
こんな風に、目が覚めた機械のてとらだって私たちの養女だけど、もう何万歳か分からないし…
一体何歳!?と一度は聞いてみたけど、答えてくれなかったし。

病んでいるほどお母さんっ子になっちゃったのは、ナイショ。

* * *

どんな社会を作るか、結構悩んでいた。

初めはてとらも惑星緑日のように、大人ごと争いの火種を除き去るかなって考えちゃったけど、

和人「それは人類を守るところか、幼稚園を作るだけじゃないか!」

てとら「な…」

成恵「カズちゃん!」

青日人「なんて無礼なこと……いくら御柱さまを育てたとしても、そんなのは許さない!」

和人「そういうことでしょう!?人間は自分がどうなるか、自分で決めなきゃダメなの!
   じゃなければ、一人も残されず精神操作でもすれば?」

青日人「そして、自由に殺し合ってもいいってこと!?」

てとら「両方とも、やめて———!」

* * *

結局、てとらはカズちゃんの方を選んだ。

守っているだけではない。
人を人間同士から守りながら、自由も与えて、そして優しく見守っている。

どんな社会を作るか、人間自分で決めればいい。

そのせいで素手でも相手を殺そうとするようなバカもいっぱい出るけど……

思いなしか、異文明が接触している。

そして皮肉でも、てとら自身は異文明の接触そのもの。
そのせいで、神ごときの星船を滅ぼす程の争いも。

でも、なんとかなった。

私が何度も何度も、無理矢理怖い夢から起こして、
「あんなのを見ないで、私を見てて」と、諭してきたから。

だから、きっとなんとかなる。

お互いに理解できるように。
たとえそれは私が見届けなくても、頑張ってみよう。

意味を求めながら、幸せな高みへ。

「あっ、お母さん!お帰りなさい~」

世界が壊されずに済む可能性「てとら!」

てとら「え…」

「私、私のこと、分かる?」

てとら「お母…さん?」

成恵は強く強く、自分の子を抱きしめた。

「よかった。覚えてくれたのね。」
「覚えている?この星も、みんなも、守るって。」
「あれは、てとら本当の気持ちだね。信じてあげなくて、ごめんね。本当に、ゴメンなさい…」

「しっかりして、みんなを守る船になってあげて。」
「もしも、できるなら…」
「私もてとらに守って欲しいな。誰よりも、何よりも。」

「一緒に頑張ろう?世界を、よくしよう?」

てとら「う……う……」

本当は「うん…!うん…!」と答えようとしたけど、声にもならなかった。

《制御系統・強制上書き開始》

「ああああああああああぁぁぁ———!」

お母さんは私の全てを、「てとら」として受け入れてくれた。
私を信じてくれたから。

だから私、強くなれる。

どんな記憶にも、習わしにも、もう縛られない。
みんなを守る船、新しい「第四の御柱」として———

* * *

成恵「落ち着いた?」

「うん…もう大丈夫。」

《制御系統再構築完了》

「ありがとう、お母さん。ああなっても、私を諦めないなんて…」

「本当に、バカな子だな。てとらを信じないなら、私が何を信じればいい?銀聯?それとも合星国?」

「あ…」

流石ちょっと、照れくさい。でも同時に、何かに気がついたようだ。

「どうしたの?」

「囲まれている。私はもう、全兵装を仕舞ったのに…」

「てとら、待って!」

中枢として、てとらは船を操る位置に戻ろうとしたけど、服を掴まれて、和人に呼び止められた。

「どうしたの?お父さん…」

「僕にまかせて、バチスカーフの所に転送して。みんなに伝えていくから」
「きっと、信じてくれる。もう何もしなくてもいい。ここで待ってて」

「でも…」

和人はポンっと、久々にてとらの頭に手を乗せた。

「側にいてあげて。成恵ちゃんを、守るでしょう?」

* * *

「てとら——おいて~」

こうやって、てとらはまた成恵の懐に戻った。
本当はどちらかというと、このままでいてほしい。

「実はね…」

「うん?」

「逆だよ。星々の間に戦争が絶えないから、お爺さんが香奈花お姉ちゃんのママと離れた。」
「だから地球にやってきて、お婆さんとの間にお母さんが生まれたんだ。」

「香奈花お姉ちゃんのママは現場指揮官として、
 半隻の私と戦ってきたから、お父さんとお母さんはここにいた。」

「結局、殆どの世界は失敗だったよ。私は存在の意味を失って、世の外に出たか、
 楽園を作るため、容赦なく艦隊を潰したか」

「でもこんな私でも、お母さんが信じてくれたなら…」
「私も、信じてみようかな〜と思う。今度は…」

途中に、泣き声になってしまった。

「ちがう…って…」

「うん…」

それ以上、成恵も何も言えなかった。
ただ抱きしめている腕に、力を入れた。

信じてみよう。
今度は、違うって。

* * *

《基軸第四世界》・《七瀬家》

世界は可能性があるだけ分岐している。
だからこそ、並行世界を繋げる、旅できる御柱は、量子の不死性を得た。
                       えい  えん
意味を保ち続けられる可能性は、必ずあるから。
たとえ、私はもう認識できないとしても。

お母さんが私を受け入れても、世界が壊されずに済む可能性だってある。
たとえ、私は想像すらできないとしても。

どちらの私も、お母さんの懐で眠りについたでしょう。
わざわざ、聞かなくても。

「おやすみ、そっちの世界、違う私。」








(成恵の世界・永遠の楽園エンド)












後書き
「幻想を現実にしたいなら、書き下ろせばいい。」(名無し)

SSところか、話を書くのは何年ぶりだろう?

原作の「アルマゲスト編」の終わりを読んでから、正直ずっとすっきりしていなかった。

みんな「正しいこと」をしたんでしょうか?

「異文明が接触しても必ずしも争うわけではない」、「御柱ほどの力では恐怖しか生まない」としていますが、
本編世界では、本当にそうでしょうか?

現実世界では、本当にそうでしょうか?

普通の人間としては、こんな始末を望むでしょうか?

私なら、どんな結局を望むでしょう?

そして最初に気になって、今でも一番気になるところは、
「一人の子は酷いことをしたかも」とも、考えられるところ。
本当にはっきりしたくないが、それは「家族なのに、存在の意味ごと否定してしまった」ということ。

たとえ、半分だけでも。

結局、自分を落ち着かせるためだけでも、すっきりしていないところを欠片として集めて
(御柱のナノマシンのように?)、逆の並行世界の話が出来上がった。

自己満足ぐらいは、出来たかも。少なくとも、もうすっきりしたぐらい。
もしお読みいただいても、違和感を感じさせず、いろんなところを思わせるのが出来たら、
それ以上の幸いがありません。

書く途中意識したのは、「魔法少女まどか☆マギカ」と「幼年期の終わり」。
「アルマゲスト編」の最終話を読む前にも、所々キャラが似ているな…と、何となく思っていた。
そして、惑星を呑み込もうとする御柱と、生命を吸い上げ救済の魔女、Kriemhild Gretchenの相似性も。
逆の結局なら、「幼年期の終わり」みたいな終わりにならざるを得ないし、影響を認める題名にした。

キャラと設定は出来る限り原作準拠にしようとしたが、力が及ばないところ、ご容赦いただければ幸いです。
そして最後にもう一つ、丸川先生に感謝しなければなりません。ムラクモが語りながら、
テトラビブロスが組み上がっているあのシーンは、読んだ漫画の中だけではなく、おそらくどんな話でも、
どんな媒体に通じても、それ以上心に刻む場面がありません。

(2011/06/21)



後々書き
「一人の死は悲劇だが、数百万人の死は統計上の数字に過ぎない。」
(エーリッヒ・マリア・レマルク)

こういうのを書くのも何ですが、ちょっと思いついたことがあるので。

どうしてこんな結局を望むんでしょう?

質問を変えさせてもらいましょう。正しいのは、どちらでしょうか?

「きっと悲しいことはなくならない」というのは、実は「必ず争いを生む」よりも、
根拠のない悲観主義だと思います。何せ、原作の本編世界は、今までずっと御柱の言うとおりだし。
それに比べて、成恵が信じているのは、あくまでも自分の経験と、自分に言い聞かせること。
惑星緑日を見てきた和人は兎も角、成恵は「もう一人のてとら」が夢見るずっとについて、分かりようもない。

それに、あそこまで御柱を否定できるのは、成恵が「そこまで不幸でもない」からだと思います。

もし、御柱中枢の卵が桜ノ町、和人家の庭に戻るじゃなくて、多くの人がいる所へ、ランダムに転送すれば?

アフリカの自給農村。
アメリカのゲットー。
ブラジルのファヴェーラ。
メキシコのスラム。

多くの人は、生きるだけで精一杯、ただもっと穏やかで、楽な生活を望むでしょう。

もし「てとら」があんなところで生まれたら、恐らくもっと「御柱らしく」振る舞ってきたでしょう。
メキシコの場合は、もう麻薬カルテルの一つや二つぐらい、ぶっ潰してきたでしょう。
原作の本編世界だって、アルマゲストの欠片で遊んでいただけで、米軍に銃を向けられた子供たちも、
心から惑星緑日みたいな楽園を望むでしょう。
鈴「もしなにもかも好きにできたら それは世界に一人きりでいるのと変わらないです」
てとら「勝手に世界を変えちゃダメなんだよ」

もちろん、それも正しいと思います。だがそれはあくまでも、「穏やかな日々が過ごせる」
という前提に基づいてしか、考えられないことだと思います。原作の鈴ちゃんだって、特別な場合で、
都合よくてとらに能力を使わせた。多くの人は、それを考えるのさえできないと思います。
そして多くの人のためなら、世界を変えてもいいと思います——むしろ、そうすべきだと思います。
するのも、しないのも、同じく「ひとつの選択」にすぎない——人間は、そう考えがちじゃないけどね。

もっとも、一介の中学生に、そこまで「ちゃんと考えろ」と求めるのも理不尽だと思うけどね。
それでは、なるべく成恵の視点で、考えてみよう。

てとらは、実はそんなに人間っぽくもなかった。

原作の本編世界では成恵が鈴ちゃんからあんな明らかな機族としての自己同一性を聞いたか知らないが、
島田屋旅館の出来事からは、目を逸らせないと思います。何せ、自分も「機族として人間のことを学ぶため?」
という疑問を浮かべたし。

御柱の中に会ったてとらはとにかく、「違う!叶うなら星になって、悲しみのない楽園を———」
と叫んでいるてとらは、「そんなに変わっていない」ぐらいは、分かると思います。

ただ存在の意味が欲しい。
必要として欲しい。
家族として、成恵に縋っている。

そして、成恵の答えは……。

てとらの全て、なにもかもを必要としている人は、実はいっぱいいると思います。
ただ会うのも出来ず、潰された。

実はこんな事しても、人間のてとらを連れ戻せる限りでもないけどね。本編でも気を失ったし、
御柱のエラーにつられて、両方とも滅びてもおかしくないと思います。後、随分前にもう機械化したし、
半身と共に白蛇に化ける可能性も。

機能している御柱を止めようとするならともかく、
崩壊している御柱から脱出をせず、てとらを助けようとするなら、まず受け入れるべきじゃない?

* * *

原作の「御柱の幸福は生命の救済である」というのは、恐らく嘘ではないと思います。
深次元アーカイバの一つになるのがそれ以上の幸福というのは、流石ちょっと考えにくい。
元々てとらの仕組みでは、普段の機族よりも人と分かり合える半機族になれるかもしれませんが、
今のところ、機族の部分は人の理解が届かぬ白蛇・深次元アーカイバになった。

後はどうなるか知りませんが、今までの情報ではいい結果とはとても言えないと思います。
もし結局オールライト、円満エンドになるなら、それほどの強運ということになると思います。

てとら人間の半身は多分そんなに気にしていない、むしろ楽になったかもしれませんが、
私には色々考えてきた結論として、アルマゲスト編の終わりはかなりのバッドエンドだと思います。

(2011/07/02)

あちこちちょこっと修正・加筆しまくって、本当にすみません。あくまでもよくするためだから……m(_ _)m

(2011/06/27・07/01・07/11)

何気に、「オメラスから歩み去る人々」を意識してしまった。自分がそうならないで欲しいと言っといて……

(2011/07/05)

ラフ絵1アップ。というか、絵は(多分)これ切り…

(2011/07/11)

想像できた。もう一つの可能性。

(2011/07/20)

Tuesday, June 14, 2011

成恵の世界 少年エース2011/7月号

成恵「ほんとにてとらなの!?」
和人「どの御柱だろうとてとらはてとらだ、帰るんだてとら!」

答えは御柱の攻撃。三賢者は「我等の御柱」(てとら)もう飲まれたと判断し、和人を救って、御柱の護衛の庭師を倒した。見下してる御柱は「これでは蛇の思う壺」、と。

なぜそこまで蛇に敵対していると問いかけている和人に、「てとら」は「御柱の幸福は生命の救済」と。
世界は恐怖と絶望に満ちている。より強く、より高度に。生き残るための戦いは人を人ならざる者へと変えずにはおかない。
そして蛇は繋げるべきでない世界と世界を繋げ、宿業を助長する。異文明同士が出会えば必ず争いを生む。御柱は生命を呪いの届かぬ高みへーーー


和人と成恵はそれを信じない。だとしたら二人はここにいないはず。成恵は、うまれていない。てとらもーーー

てとらの人間の魂はそれに反応して、改めて和人と成恵の出会いを含め、地球地上の出来事を。そして一番衝撃的なのは、成恵と成美お母さんの事。御柱の機能が再び停止、祖先たちが議論し始める程。

てとら「違う!叶うなら星になって、悲しみのない楽園をーーー」
成恵「ごめんね きっと私たちが弱いのがいけないんだね」
和人「成恵ちゃん、もう脱出しないと…」


成恵はもう全てを受け止めた。もういないことも含めて、成恵のお母さん。御柱のように自由に世界を選べても、誰も死なせなくても、きっと悲しみがなくならない。「貴方」が夢見るずっとは私にはない。

もう機能停止ところか、崩壊し始めた。御柱は対蛇結界を失って、機械の魂と人間の魂も分けた。二人を囲んでいるのは、惑星緑日の皆とエウランのイメージ。
もうあなたの力は強くなりすぎてこの世界には恐怖しか生まない。でもこれからを選ぶことはできる。地に残り物言わぬ守人となるか、あるいはーーー

イメージの正体は、御柱が守ろうとしてくれた者の「思い出」ーー深次元アーカイバ、通称.蛇は、惑星青日第四の御柱を迎えに来た。「さあ聞かせて、あなたの物語を」

それは、何度も滅びる文明を見た、悲しい話。救いたかったか、認めて欲しかったか、分からない無力さ。青日の御柱はそもそも、滅びていく文明、星と共に死ぬを選んだ人々が作った、生きた証。もし生命を高みへ導くというのが正しいかどうかは分からなくなって、なお「生きた証」としての使命を果したいならーーー

蛇の敵である筈の御柱は、白蛇になる、人間のてとらは、和人と成恵の元へ。一見して全てが終わって、日常に帰ったが…


白蛇はただの深次元アーカイバなら、どうして人を襲ったり、願いを叶えたり、星門で世界を繋げたりするの…?

案外にも人間のてとらが御柱のやり方をそんなにも反対していないが、機械の魂は人類全体の為、人を殺したり、個人の悲劇を無視したりするのは出来るけど、人間のてとらならお母さんを幸せにできないなら、全てが無意味だよね。

「成恵の世界」に描かれているのは、星々の間に戦争が絶えないのも事実だし、だからこそ七瀬正が名越大佐と離婚し、睦月成美との間に成恵が生まれたとも言える。よく考えたらどちらが正しいのかよく分からなくなるが……

キャラの関係では娘がお父さんの叱りに反発、優しいお母さんの言う事に従うだけだけど(笑)。成恵はなかなか御柱のてとらを受け入れられない所為もある?強く言えば、一度も「てとら」とは呼ばなかった。